作・演出の岩井美菜子さんの盟友・山口敦子さん、今公演にて「稽古場のお友達」として見守っていただいている土橋銘菓さんにご参加いただき、「ネオンの薬は喋らない」について語り合っていただきました。
岩井さんをよく知るお二人だからこそ聞けるここだけのトークをおたのしみください。
前編はコチラ
##女の子だけを登場させてきた人間嫌い。今回は初めて男性俳優をキャスティング
岩井:初めて男性キャストを使ったんですけどどう思いますか。
山口:ああ、とうとう『まーくん』が、固定になったなって。今までさ、ずっと『まーくん』は概念だったじゃん。今回ようやく概念じゃなくなった。『まーくん』ってこういう人だったんだなあって。
土橋:ずっと何か会話には出てくるけど、話題にだけ上がる『あるある彼氏』だったんだよね
岩井:それこそ脚本を相談してるときに初めて男性キャストを使うんだから、変にロマンスしたくないよねみたいな話をしたじゃん。恋愛を描くための道具として今まで『まーくん』を使用していたから
山口:そうそう
土橋:そうだったね、今までは小道具だった
山口:1人じゃ駄目だから、相手が必要だから
岩井:男が必要っていう、ある意味フェミニズムに反するような使い方というか、人を人として見ていないみたいな書き方をわざとしていて
土橋:必要に駆られて出したとか、なにかそういう感じ
岩井:そうそう男というポジションが必要である、みたいな。だから深い意味を持たせないために『まーくん』は日替わりゲストにしてきて
土橋:今回初めてさ、ちゃんと人間として出てきた『まーくん』がさあ、逆なんだよね。これまでの道具としての存在の逆。ちょうど好きにならないし、好かれることもないし、でもすごく人間としてお互いが尊重し合うみたいな。良い人間なんだよ、今回の初めて人間として出てきた「まーくん」が
岩井:今回「人間同士の繋がりの曖昧さ」っていうのはすごく大事にしていて。これは「恋人です」とか、これは「お客さんと店員です」とか、これは「友達です」って言い切らない。
土橋:うんうんうん
山口:言葉にできない部分の人間関係が、『まーくん』のおかげでちょっと出てくる。
岩井:そうそうそうそう。あの子のことは薄っぺらく好き、とか深く好き、みたいなのを女の子同士なら空気感で作れちゃったりするんだけど。私も女だし、いっぱいそういうのを書いてきたからフワッと書けてしまうんだよね。そこに戸惑っていたり、そこを突き詰めようとする姿っていうのを、男性キャストを入れたことで書けたんじゃないかなという気がしている。それに河村さんがとても悩みながら演じてくれていて、それがすごく良いんだよね、悩みが良い。
土橋:ただやっぱりさあ、男と女、パキッとしやすいからこそさ、パキっとしてないことがわかりやすいんじゃない? 女同士ってみんな曖昧で、曖昧のままやってるけど、女と男だと付き合うか付き合わないか、とかになったりとかするじゃん。でも今回は全然付き合うか付き合わないかじゃないから、そうじゃないんだ、ってよく見えてきて。
山口:ちゃんと人間として見合ってるんだなっていうのがね、わかる。
岩井:大事に書きました。超大事に書きました
山口:すごい悩んでたよね
岩井:大切。『まーくん』のことを大切にしたい。
土橋:人間扱いした、初めて。今日見たシーンが超泣けてさ! 景福町でぶらぶらしてる若い女の子モカちゃんと薬局の店員さんの『まーくん』が喋ってるんだけど……あのね、すごい良いセリフなんだよな。「あの、怪我しちゃったんです」みたいな。モカちゃんが言ったときに、「そうだね……」が良かった。一旦受け止めたな、って……納得してないんだけどね。してないんだけど、「痛いです」「そうだね」みたいなこと言って。それが凄い良かった。優しいって。
##キャッチフレーズは「メンヘラが泣いて、おじさんが笑う」
岩井:人間嫌いの、作風というか、推しポイントとして「共感する」っていうのを強みにしてきたつもりなんだよね、これまでは
山口:「メンヘラが泣く」の部分ね
岩井:そう。共感していただきたい、っていうのを、1つすごく推しにしてたんだけれども、今回共感する以外の「わかり合い方」をしてみたいと思う。
土橋:なるほどねー
岩井:多分今回の『まーくん』は、色んな登場人物の女の子がいるけど……共感できてない、と思っている、作中で
山口:確かに……そうね。わからない、ってね。
岩井:わかってないと思って。でも共感する、分かり合えてるよね、ってする事だけが繋がりじゃないよなって。
土橋:確かに。てか、わかんないものでいいんじゃん。
岩井:そう
土橋:それでいいんだよって。
岩井:分からないまま人と人がどう繋がっていけるか。みたいなところを、河村さん演じる『まーくん』もそうだし、それ以外の人間関係でも。もちろん共感してるシーンもあるんだけど。
土橋:うん
岩井:共感じゃないっていう繋がりを描きたいなっていうのは、最初からあった。だから、男性キャストを使うこともそうなんだけど、結構私的には攻めている。やったことないことを色々やってみようと思っているんだけど……どう見えましたか私の作品を、かれこれ8年ぐらい見て……
山口:今回すごいバランスがいいなって思った。今までの作品は私の勝手な印象なんだけど、1人1人がすごいはっきりと何か意見を持ってるじゃん。てか岩井美菜子の中にある意見を、それぞれ性格と人格を与えて喋ってるのが、『フォーチュン・ウェディング』だったり『かわいいチャージ』だったりしたけど、なんか今回はそうじゃない気がして……なんかもっとね、「人が一つの意思によって動いてる」、というのとはまた違う生き方をしてるなっと思って。なんかより人が人っぽくなったなって
岩井:おおー
土橋:確かに。いろんな視点の人間がいっぱいいるよね今回。
山口:そうそう。自分自身も何もよくわかってないみたいなのがいっぱいいるからこそ、いい感じに曖昧で、説明しきってなくて、そこが逆に私は、今までと違うけれど、なんかすごく人間らしくていいなって。
##「ネオンの薬は喋らない」タイトルに込めた想い
岩井:人間嫌いは「語ってきた」と思ってるの。自分の気持ちや……
山口:みんなよく喋るよね。
土橋:ちゃんと言葉にしてきたよね。
岩井:そう、それを言葉にして。自分自身のことを語ってきて。でも今回は『ネオンの薬は喋らない』ってタイトルだから、語らせちゃいけないなって思ったんだよね。
山口:語らない分さ、やっぱ外側がやんわりしてくるから……
岩井:そうだね。
山口:今まで一番文字数が多い。喋らないっつてんのに(笑)
土橋:台本読んでると、私面白さわかんないのね。それが何かって……人間嫌いの作品って、役者としてやるのすっげえ難しいと思うんだ
岩井:おおー
土橋:それって、書いてある通りの事じゃないからなんだよ。だから、芝居で観ると、台詞と全然違う事、や、気持ちのやりとりを登場人物達がしてきて、それで初めて意味が分かって、初めて面白いって思う。
岩井:うんうんうん
土橋:だから文字で読んだりとか、ローコンテクストな芝居で見せられたら、全然面白くないんだよ美菜子の台詞って。すごく、照れ屋な人だよね美菜子は、だから。
岩井:おおー
山口:そっかー!
土橋:これまではラストシーンではちゃんとフォローしてたんだよ、言葉にして。でも今回は、結構それを最後まで抑えてて、なにか大人の社会の人間達だなって感じ。
岩井:うんうんうん
土橋:でもやっぱり素直な部分とかもあって、仕草仕草で、ね。グッとくる。みんなの誤魔化しがグッとくる。
岩井:誤魔化してるんだよね、みんな。
##十代に覚えた傷、忘れかけていく傷や痛みを、最後にちょっと残したい
岩井:これ終わってすぐ私25歳なの。
山口:はあ!
岩井:何かやっぱ、一つ区切りだと思っていて、今までやってきた事、の集大成でもありたいし、久しぶりの新作だし、っていうのもありつつ。何かやっぱちょっと、一歩大人な作品にしたい、というか。
山口:確かに。
岩井:何か、十代の傷を書けるのが最後だと思ったし。
土橋:そんな。そんなこと言わないで……
岩井:十代に覚えた傷、忘れかけていく傷や痛みを、最後にちょっと残したいなと思ったってのもあるし、これから待っている、なんかもっと大人にならなきゃいけないみたいなところも描きたいなと思ったし、みたいな。過渡期みたいなイメージがちょっと、あった。
土橋:あああそんな十代の痛みを忘れないでー。だってさ、……作中でも言うんですよ。「痛みはなかった事にしたくないから、痛くなくなりたいわけじゃないんですよ」っていうのがあって。何か十代の私を救ってくれた時の気持ちを忘れないでって。あの時のあの日の私を救い続けてほしい、というか……
岩井:そうね、でもなんか、なんだろうな。乗り越えてはしまったなと思っている。十代の痛み、十代の、辛かった事とか。
山口:書く度にさ、一個一個書く事によって消化してってるから、書けば書くほど、消えちゃう。
岩井:それこそ『かわいいチャージ』、自分が可愛くない、けど可愛くなりたい気持ちと、可愛い物を手にしたい気持ちと、色んな可愛いに対して苦しんだり、喜んだりとかっていう気持ちは、今でももちろん、消え去ることはないけれども、向き合い方を知ってしまったなと思っていて。
山口:折り合いついたよね。
岩井:うん。
土橋:わかる凄い……
山口:2回やってようやく折り合いついて……
岩井:もちろんあの作品をまたやって十代の子たちに見せたいという気持ちはある。再演したいって気持ちは別として。
土橋:自分の中だよね。
岩井:そうそう、自分の中であれをフレッシュに今書けますか、とか。じゃ、あの『かわいいチャージ』をもし書いてなくて、今私が書けって言われたらきっと……何か違う物が出来ちゃうんだろうなって思って。
土橋:確かに。
岩井:今、あのテキストを読んでもあの時の痛みってのはギュッと感じられて。でも何も無しで、今も痛みを捉えられるかといったらそうではなくて。だから、ギリギリ今20代前半最後の作品として、従来の痛みを忘れ去らずに書けるんじゃないかな、というか。最後の残り香として書けるかな、みたいな。というのは、ちょっと思っている。
山口:勝手な勘だけどさ。大人になったら大人になったで、その痛みがあると思うんだけど。結局それも十代の頃みたいな悩み方するんじゃない?
岩井:そうかもね。そうかもしれない。だからこれからまた違う痛みと戦うんだろうなとは思っている。
土橋:無くなりはしないんだろうね。
岩井:そう、無くなりはしなくて。だから一つ一つ乗り越えなきゃなと思っている。増えちゃうばっかじゃ辛いから。
土橋:確かに。じゃあ美菜子は書かなくなる日は来ないね。
岩井:そうだね。だし、見てもらって一歩ずつみんなも消化してくれたら嬉しいなと思う。
土橋:本当そうだね、見たらね、消化できるんだよなんか。書き方は変わったかもしれない。今回、その、全然あからさまに言う事がなくなって、だからね、芝居する人は大変だと思う。
岩井:難しいと思う。
山口:難しいかな?
岩井:すごく難しいと思う。
土橋:役者はすげえ難しいと思うよ。ぱっと見、凄いローコンテクストなんだよね、美菜子の会話って。そのまま読むんじゃないんだよね……。でも今回少し手法が変わったけど、でも良いところはなくなってないと思う。なんかすごい細やかな、その個人的に解決しなきゃなって部分、その内側の引っかかりみたいなの、を、なんていうかね、そっと。人類皆メンヘラだと思うから、みんな500円受け取って欲しいよね、受付で。この登場人物の中に、自分に重なる人がいなくても、でも何かそういうのを消化できたりとかすると思うんだよな。私は「ただ駄弁ってるのが面白い」でもいいと思う
岩井:そうだね。ギャグとか言うわけじゃない。普通に、ディスコミュニケーションは面白いなって
土橋:おもろかったよね。私、ああいうのめっちゃ好きだよ。「傘って雨が止んでる時に無くす物だと思ってました」
##お客様へのメッセージ
岩井:どんな方も楽しめると思う。
土橋:確かに。何か、軽く駄弁ってるのを笑うのも凄い楽しいと思うし、私は結構消化しきれなかった何かを突かれて号泣してしまいました。
山口:あと個人的には、今作はこれまで岩井さんからの成長が1段あるので、岩井さんを追ってる人にとっては「また成長したね」って楽しめると思う。
岩井:嬉しい。
土橋:手法が違うから。
岩井:嬉しい。成長してるそうです。
山口:違う攻め方してる
岩井:台詞うまくなったねって言ってくれたからな、パッと、(山口に)台本渡した時に。
山口:毎回割とちゃんと、毎回うまくなってるねって、言ってる気がする。
岩井:今回も成長したテキストでお送りできると思います……ご予約お待ちしてます。
山口:是非とも観に行ってあげてくださいー!
土橋:お楽しみにー!
お三方とも、座談会ありがとうございました!
劇団人間嫌い「ネオンの薬は喋らない」は6月3日(金)より開演!
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